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第四章・30話
雄翔の優しい笑顔が、心に浮かぶ。
それは、ふんわりと温かなはずなのに、都の胸をきりきりと締め付けた。
「ダメなのに。僕なんかが、雄翔のこと好きになったりしたら、ダメなのに!」
家柄が違う、家庭環境が違う、経済力が違う、そして何より。
「Ωの僕が、αの雄翔を好きになったりしたら、迷惑だよね……」
雄翔だって、何でも屋の疑似恋人だから、僕と付き合ってるだけなんだから。
僕で練習して、ホントの恋人ができた時に、上手にエスコートすることが目的なんだから。
泣けてくる。
涙が、止まらない。
でも。
「明日、ハッキリ言おう。もう、これ以上雄翔の傍にはいられない、って」
それが、雄翔のためだと思った。
潔く身を引こう、と都は決意した。
「駅前に、新しいカフェがオープンしたらしいんだ」
そこへ行ってみよう、と雄翔は誘ってきたが、都はいつものカフェに行きたいと押した。
いつもの、カフェ。
初めて、雄翔と一緒に寄ったカフェだ。
終わりも、そこで決めたかった。
スタートとゴールをつなげて、永遠に忘れることのない思い出にしたかった。
「あの、ね。便利屋、もう終わりにしたいんだ」
都がそう切り出すと、雄翔は眼を見開いた。
何か言おうと唇が動きかけたが、都はそれを阻むように早口で告白した。
「僕、もうダメなんだ。雄翔のこと、本気で好きになっちゃった。だから、疑似恋人じゃいられない」
「都、それ本当?」
「前に雄翔言ったよね? 下手な感情移入をせずに、恋人を演じてくれる人物が欲しいんだ、って。感情ビシバシ入っちゃって、もう、無理」
あろうことか、都の目には涙まで浮かんできた。
雄翔はそれを見て、心を傷めた。
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