〝君は他に言葉を知らないのか？〟 　アスカは男が勿体付けて話したことを頭の中で繋げてみた。クソっと思い、フードに隠す顔を苛立たしげに引き攣らせる。 〝うるせ！占い師が他に何するってんだよ！〟 　そう声高に凄んでみたかったが、ぐっとこらえた。男が客だからではない。十八歳の健全な青年のアスカの素顔を、ヴァンパイアに披露したところで、怪我をするだけだ。モンスター居住区の住人であっても、アスカは肉体的には極普通の人間だ。度胸試しならいざ知らず、真正モンスターのヴァンパイアと揉めても得るところがない。 　人間外種に登録変更する前のアスカは、硬派なクソガキといったところだった。子供を守ることに必死の両親には気付かせなかったが、霊媒であることは生きて行く上で有利とはならない。人間とモンスターのあいだに明らかな線引きをされた現代では、尚もって生き辛い。知りたくもない秘密を知る前に、つい手を出してしまうことが多々あった。