欲望は単純だが、その原動力となる人生はままならない。アスカは哀愁に浸る年寄りのような気分でそう思ったが、即座に、子供じみた癇癪で思い直した。顔のことで男にとやかく言われていい道理はない。ぎょっとするのは言語道断だ。 「てかさ、あんた、金払ってさっさと帰れっ」 　生意気な口を利かれることに慣れていないのだろう。男の苦々しい顔付きに驚きが浮かんだ。驚きが戸惑いに変じ、それもすぐに笑いへと変わる。男はヴァンパイアであるその身を忘れたように、まさしく人間的に、腹を抱えての大爆笑をし始めた。 「笑うんじゃねぇ！」 　怒り心頭に発するアスカの怒声にも、男は構わず笑い続けている。 「こ……れが、笑わ……ずにいられるも……のか」 　笑いに息を切らしながら答える男は、どこか楽しげで、ヴァンパイアへの恐怖も霧のようなものと思わせる。晴れてしまえば、すっきり爽やかだ。アスカは男に視線を定め、クソ食らえとばかりに立ち上がっていた。