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顔を立てる?

「そうだ」  アスカは思い出した。気持ちがざわつき、どうにも落ち着かない原因が頭に浮かぶ。 「あいつの名刺、置きっぱなしだ、片付けねぇと」  アスカは立ち上がった。フジタクミが来る前に捨てておく必要がある。彼女が手にしたところで何もないだろうが、用心するに越したことはない。アスカは急いで小部屋に入った。すぐに目に付いた。男の名刺は薄暗い部屋の中で仄かな光を放っていた。 「あの野郎……」  男が名刺を残したのは、料金を取り立てに来いという単純なことではなかった。 「ふざけやがって」  文字にはされていないメッセージが仄かな光に漂っている。名刺に宿る精霊の慎ましやかな喋りと言えなくもないが、アスカが知る精霊達はかしましい。慎ましいことが奇妙であるように、モンスターの持ち物に聖霊が宿るというのもおかしなことだ。同じ部屋の中にいて、騒がしい限りの聖霊達が、名刺に宿る聖霊の顔を立てるように淑やかにしているのも異常だった。

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