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胸に落ちた?
「ひえっ」
アスカは小さく叫んだ。クソマジにヤバい響きに惑わされたのが運の尽き、次から次へと、とんでもない目にあわされている。男を安心安全と思う一点で踏みとどまれているが、エグい尖塔のせいで、その気力も萎えそうだった。
「クソったれが……」
本当は怒鳴り付けたかったが、我慢した。しわがれ声のヴァンパイアは執事然とした初老の男で、どう見ても使用人だった。痩せぎすの体をきりりと伸ばし、もちろん無表情で立っている。不気味としか言いようのない男で、アスカも我慢するしかなかった。
アスカの知るヴァンパイアは若く逞しい。多少の年齢差はあっても年寄りはいない。ヴァンパイアの秘密は深淵として、難解なようだ。そう思うアスカの頭に、渋く甘い声音がゆったりと響く。
〝あやつは厄介……〟
男が瞬間移動中に話したことだ。気分の悪さにどうでもよかったが、ここで妙にすっと胸に落ちた。
〝見目麗しい少年と侮るは間違い、口は慎むに限る〟
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