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男に甘えよう?
年寄りだろうが、しわがれ声はヴァンパイアだ。アスカの首筋にある〝キスマーク〟が見えている。無表情ながらも、死者の瞳と呼ばれる錫色の目に微かな蔑みを浮かばされたことで、嫌でもわかる。しかし、腹は立たなかった。ひた隠す激しさを抑え込めずに、糧への憎しみを溢れさせただけのことだ。哀れに感じても腹は立たない。それよりもヴァンパイアの恐怖とは別次元の不気味さを、アスカは思った。
年寄りということもだが、モンスターに尽くすのを喜びとした人間達のようにヌシに仕えている。見目麗しい少年に心酔する初老の男、想像するだに不気味だが、しわがれ声の痩せぎすの体こそが、ヴァンパイアの秘密そのものなのかもしれない。どういった秘密でも知ったことではないが、ヌシを侮らないよう戒めた男の助言には得心が行った。
男は任せろと言った。フードに隠れていろとまで言った。折角の申し出でだ。アスカは男に甘えようと思い、口も慎むことにした。
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