「ふざけやがって」 　束の間、男の名前を知ってアスカの胸は笑いに溢れたが、この瞬間は腹立たしさで一杯になる。男の意味深な行動がヌシとの因縁にあるとわかっていても、心の片隅ではもしかしたらと期待した。むずがゆい胸の疼きに、それを教えられる。 「クソっ」 　アスカは自分に向かって毒づいた。それでも精霊達と一緒に男をからかう楽しみが残されているのを思い、腹立ちを収めた。 「あんたも覚悟しな」 　精霊達は噂に奔放だ。アスカは散々に振り回されている。ヴァンパイア社会で上位だろうが、土俵が違う。精霊達のクスクス笑いにかっかしようが、男にも反撃は難しい。 「ぐふふ」 　アスカは耳ざといヴァンパイアに聞かれないよう、息に紛らわせて笑った。ヌシの用件に不安はあるが、キイという名のクソ野郎を盾にすればいいことだ。甘えはしても、思うがままにはさせない。惚れた腫れたがない方が、首尾よく運ぶ。未練たらたらな胸の疼きも、それで宥められる。