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尻込み?

 男はヴァンパイアだ。聖霊達と話せるように死者の声も聞くことが出来る。魂に潜む過去の声も同じだ。彷徨う死者と違って声を出す意味がないだけで、出して来たのなら、アスカのように気付けていた。気付けなかったのは声が既に遠く離れていたからと思った。『霊媒』の能力が過敏に反応しただけのはずだった。それもヌシにはアスカが男に聞かせないよう抑え込んだからと言われている。そこに嫉妬があったとすれば、無意識に黙らせたのも否定出来ない。 〝殿……〟  声がもう一度、今度は愛に満ちた優しさで男を呼ぶ。いちゃつきたいのなら他でやれと、アスカは怒鳴ってやりたかった。それが出来ない自分に苛立ちが募る。 〝冗談だろ〟  全てはそこに行き着くようだ。  アスカは男をきつく睨んで、たじろがせた。ざまを見ろと、心のうちで罵った。アスカの勢いに怯んだと思いたいが、違うことはわかっている。安心安全でケチ臭い根性なしは、瞳の煌めきに尻込みしたのだ。

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