177 / 812

自分に嫉妬?

 男が見せた思わせぶりは、何もかもが細く柔らかな声へのものだった。しかもその声はアスカの魂の奥深くから発せられている。期待して、虚しいと諦めたのは何だったのだろう。アスカにはアホらしいとしか思えなかったが、男に寵愛される〝フジタクミ〟を思うと複雑な気分になる。  〝フジタクミ〟がヴァンパイアというのはヤヘヱから聞かされた。ヴァンパイアには序列の厳しさがある。男が心のうちで誰を思っていようが、文句を言わず、嫉妬もしないということだ。つまらない付き合いだが、見方を変えれば色気があって乙なものと思えなくもない。アスカは違う。糧にはなったが、それだけのことだ。糧らしく隷従しない。遠慮なしに嫉妬する。ついでに怒鳴り付けもする。 〝殿……〟  胸を熱くする切ない響きが自分の魂から出ていようが、昔の女を何百年も引きずる男を呼ぶ声にはイラつかされる。自分で自分に嫉妬しているようで情けなくもあるが、ムカついてならない。

ともだちにシェアしよう!