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僕の……?
「ええ?」
フジにすればアスカに怒鳴られる謂れはない。びくつきながらも困惑した声を出して当然だろう。そうなったのも母親似のこの顔が原因と、アスカはこじつけた。
『霊媒』の能力が引き寄せるものに怯え、泣いてばかりいたことも関係している。アスカを守るのを生きがいにした両親の愛情は偏っているが、父親の愛し方は母親の甘やかしを遥かに超えていた。アスカを娘のように可愛がり、甘えてもらいたがったのだ。十代に入って限界を知ったのか、息子として扱うようにはなったが、子供の頃は最悪だった。それでも父親にとっての一番は母親だ。アスカは父親が母親に向けるヘタレ顔を思うことで気持ちを宥め、フジにも穏やかな口調で言い直せていた。
「俺が聞いてんのは親のことじゃねぇ、その前だぞ」
「前?僕の……タクミ?」
自分の名前を不思議そうに口にした途端、フジには合点が行ったのだろう。びくついていたのも忘れ、明るく元気な笑顔を見せていた。
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