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矛を収めた?
占いに予約を入れた〝フジタクミ〟を女と勘違いした時から、アスカには〝フジタ・クミ〟であって〝フジ・タクミ〟であったことはない。紛らわしい名前のせいで無駄に恥をかくことになってしまった。それで男に当たり散らしたのだが、男には完璧に馬鹿にされた。銀白色を帯びた錫色の瞳をひややかな色合いに濃くしたのでわかる。フジの抑えた笑いも耳に響く。アスカを気遣ってのようだが、男は容赦がない。
「誤謬を犯す、余計なことを考えたがる君の落ち度ぞ」
「な……!」
アスカがムキになって喋り出す前に、すっと片手を上げた男に黙るよう促され、言葉に詰まる。男はその状態でフジに向かって問い掛けていた。
「なに故に私のサインを欲するか?」
フジが仕事で来たことくらいアスカも承知している。〝やりてぇ〟と〝逆らえぬ〟の争いよりも大切というのも理解する。
「ぐるるぅぅっ」
アスカは低く唸ることで矛を収めたが、男への憎々しさは膨らむばかりだった。
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