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特別調査?

「がうぅっ」  アスカが唸り声を妙な響きに変えたのは、目の前にはだかる男の手に噛み付きたくなったからだ。人であった頃の戦いの日々に鍛えられた手のひらは、喧嘩上等程度とは比較にならない自信と力強さに溢れている。美しいとさえ思わせる逞しさだが、同じ男としては嫉妬も感じた。それで張り合い、殴り掛かったところで負けは必至だ。がぶりと食らい付いて離さないといった攻撃にこそ勝機を得る。 「ぐふふっ」  アスカは卑怯な手段ににんまりし、笑うように唸った。そうした一連の唸り声を誤解したのか、男に答えようとしていたフジが声音をおかしな風に震わせた。 「うんと、夕方に……」  ヤヘヱの腕時計と同じで幼さがフジの逃げ場なのかもしれない。これで仕事となると人が変わるとはアスカには信じられないが、男に睨まれ、口調をしっかりさせて続けたのを見ると、評判倒れでもないようだった。 「人間外種税務局から連絡があった、特別調査を明日するとね」

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