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妬いたらどうよ?
「あんたさ」
アスカはフジが手首にはめる腕時計を見下ろして言った。フジはタブレットを鞄に押し込んだあと、腕時計と向き合うように胸の辺りに持ち上げている。その話すのにも楽な位置でゆったり寛ぐように揺らめく煌めきが、アスカには面白くなかった。あれ程に可愛がられているというのに、主人がいない隙に息抜きとは厚顔過ぎる。そう思い、超高級な腕時計では畏まるヤヘヱを皮肉るようにして続けた。
「あいつの側を離れたことがねぇっつってたよな、なのにそこで何してんだ?」
言いながら視線を上げてフジを見る。
「あんたもだぞ」
フジはきょとんとしたが、明るい笑顔に変わりはない。それもアスカには面白くなかった。男の愛の鬱陶しさがさせたと理解はしても、別の癒しに走った恋人を笑って見送れるフジの無神経さに腹が立ち、アスカの口調は自然と嫌みったらしいものになって行く。
「あいつと付き合ってんだろ?笑ってねぇで、ちっとは妬いたらどうよ」
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