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ふりをする?

「仕事にも慣れて、これからという時だったな」  フジは明るく元気な口調をほんの少し翳らせて、人間として生きていた頃の記憶へと話を向かわせた。血の系譜と呼ばれ、人であった過去を持つモンスター達を塵にし兼ねないものだ。暗くもなるとアスカは思っていたが、亜種となると様子も変わり、フジは当時の苦悩を思ったに過ぎず、すぐにあっけらかんと続けていた。 「僕の心臓、壊れちゃってね、次の発作が最期とも言われたよ、だけど僕は生きたかったし、だから代表にお願いしたんだ、どこへでも付いて行くからとね」  男となら闇に落ちても構わない。フジの話がそういったことだとアスカにはわかる。その純粋で激しい思いがフジの変異を成功させた。惚れた腫れたの感情は一切ない。僅かでもあれば変異は失敗していた。それも頭で理解するだけで、男を父親と慕うフジの激しさが、両親に甘やかされて育ったアスカには理解出来ない。理解したふりをする気もなかった。

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