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隠れ棲む意味?
「うっ……ん」
フジには詰まった調子で頷くように返された。さすがに下っ端にはヌシの悪ふざけを〝遊び〟とは言えないようだ。それでも中途半端な返事に浮かばせた思いがアスカにはわかった。
〝僕達、人間が怖いんだ〟
ヌシは楽しげにそう話していたが、怖いというより関心がないというのが正しい。人間を支配しようと考えてさえいないのだ。そのことはフジが父親と慕う男も、アスカの喉元を掴んでいた時に語っていた。そしてこう続けている。
〝糧とする血、弄ぶべき感情、人間に求めるは、二つのみ〟
糧とする血は幻惑で幾らも手に入る。弄ぶべき感情がご馳走で、隠れ棲んでいたのもその為だ。見えないものが見せる幻想への尊厳と恐怖は、人間の感情に純粋さと激しさを呼び起こし、支配では得られない〝旨み〟を作り出す。その〝旨み〟が元からなくなったのでは、ヌシにも隠れ棲む意味がなくなる。
「ってもな……」
アスカは人狼を思い、胸のうちで小さく呟いた。
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