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スーツの縫い目が?

「ってもだ……」  『人間外種対策警備』には初めて足を踏み入れた。聖霊への腹立ちより興味が先立ち、アスカはフードに顔を隠したままでさり気なく周囲を見回した。  正面に受付があり、その奥に二階に上がる階段がある。エントランスホールには待合用のソファも置かれているが、誰も座っていない。ガラス越しに差し込む日差しの明るさは、閑散とするホールをやたら静かに寂しく見せている。 「ふふん」  『人間外種対策警備』の商売相手は殆どが人間だ。たとえ仕事でも人狼の巣に出向くような奇特な者はまずいない。それもアスカには好機だ。受付へと向かい、歩きながらこう続けていた。 「幸先、良くね?」  受付には人狼がいた。優に百歳は超えているはずだが、見た目はアスカと同年代だった。暇な受付に回されるようではフジと同じ下っ端だろう。しかし、フジのような素直さはない。スーツの縫い目が裂けそうな勢いで肩を怒らせ、猜疑心丸出しでアスカを睨んでいた。

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