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中へと進んだ?
『人間外種対策警備』が占有するビルの所有者はアルファだ。アスカが生まれた頃に、全面ガラス張りの瀟洒な二階建てのビルを中心街のど真ん中に自前で建てたのだ。派手好きな人狼にしては華美な飾りのないすっきりした外装で、爽やかな秋の日差しにも品よく輝いている。
「うーん」
アスカは変態屋敷と真逆のビルを見上げ、考え込むように唸った。日差しの輝きに自然界の聖霊の笑いを聞く。その笑いを映すビルに向けて呟いた。
「心配、じゃねぇな?」
口元を歪めるようにして言葉を繋ぐ。
「煽ってやがる」
自然界の聖霊は腐れ男に精気を与えた。カラカラに乾き切った体をプリプリにしたのだが、それと同じと思えば理解もしやすい。気遣いのような囁きも、かしましい精霊達のルンルンさを優雅で奥ゆかしいものにしただけのことだった。
「クソっ」
精霊相手に無駄な所作とわかっているが、アスカは腹立ち紛れにマントを翻し、同じ調子で自動ドアを抜けて中へと進んだ。
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