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噂の元が?

「ああ、男になってやる」  アスカは果敢に呟き、カフェの前で立ち止まり、丸太小屋風の素朴な造りの巨大な建物を眺め遣った。窓も大きめだが、花唐草模様のエッチングガラスのせいか、無骨な中にも可憐な優しさが匂い立つ。横長の広々したポーチへと続く階段は三段あり、それを上ると、厚みのある板に窓と同じエッチングガラスがはまるドアと向き合う。強さと儚さに彩られた建物に隣接する駐車場の最奥に作られた特設ステージには、覆いがしっかりと被せてある。山男によるパフォーマンスは休日限定だ。変更はない。  アスカが中心街に来るのは、観光客にも受けのいいスーパーを目当てにしてだ。カフェには一度も立ち寄ったことがない。モンスターの噂に慎重な精霊達を真似て、かかわらないよう避けていた。両親は違う。足繁く通い、観光客気分で楽しんでいる。それもあって、噂の元が聖霊達でないのは笑えるが、アスカにも店内のおおよその雰囲気がわかっていた。

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