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笑ってやる?
「あんた……」
モンスターに変異しようが、男は腐っても殿様である。勝手に姿を消したと腹を立て、アスカを追って来たように、命じたことに逆らわれるのに慣れていない。その顔付きに表情がないとしても、間違いなく憤然と椅子に座っている。〝邪魔だ、うせろ〟と言ったところで、素直にいなくなってはくれないだろう。
それならと、アスカは考えた。意外と直接に聞くのが早道だったりもする。無表情のその裏に隠す人間的な感情を刺激すれば情報が引き出せるかもしれない。男が現れたことで、ヤヘヱから入手しようという思惑は灰燼と化したのだ。新たな策へのご機嫌取りも苦にはならない。
「あんた……」
アスカはほんの少し勿体付けて繰り返し、にやりとして言葉を繋いだ。
「……とアルファ、勝ちはどっち?」
服装にしても髪形にしても、男には僅かな乱れもない。これで負けたと言われたのなら、アスカもお手上げだ。そうなれば遠慮なしに笑ってやるだけだった。
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