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さらに艶やか?
「ったく」
アスカのその呟きが息を吐くような響きになったのは、アルバイト風の給仕を思い遣ってのことだった。男にも気付かせようと目配せをしたが無駄だった。見目麗しいハンサムな顔が招いた災難とも思えるのだから、阿吽の呼吸となるはずもない。意思の疎通を図るどころか、無表情に映す男の苛立ちに不審が加わり、美しい目鼻立ちがあだとなって憤怒を描く。そうした顔付きで男がアスカの視線を追ったのだ。アルバイト風の給仕が仕事を放ってそそくさと、部屋を出て行ったとしても責められはしない。
「あんたさ」
男と二人、個室に取り残されたアスカは呆れた調子に話を続けた。
「ちっとは顔、気にしたらどうよ、見せられるこっちはたまんねぇし」
そこで意外なことに男が笑った。ひとしきり楽しげに笑ったあと、笑みの残る顔をアスカに向ける。男の笑顔には魅力がある。占いの小部屋でも見せていたが、嫌みがないだけに、ここではさらに艶やかで胸に応えた。
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