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かの変態屋敷でも?

「クソったれがっ」  腹立たしさの余りに考えなしに言ったせいか、アスカのむすっとした口から発せられたそれは個室に反響し、怒鳴り声に近いものになっていた。うろちょろと邪魔臭げに舞い飛ぶ光への言葉であっても、動き出した時間と繋がり合って、テーブルの向こうに座る男に放ったことになる。  部屋にはアスカと男しかいないのだ。簡単過ぎる引き算で、人間やモンスターの別なく誰もがそう結論付ける。当然のこと、男にも訝しがられたが、銀白色を帯びた錫色の瞳を微かに翳らせたのであって、美貌については聖霊が待ち望む崩しとまではならないでいた。  アスカが知る範囲でいうのなら、時間を自由に操れるのは精霊の他にはヌシだけだ。つまりアスカの怒りの矛先がどこにあるのかが男にはわかっていない。さすが精霊のすることには抜け目がないが、かの変態屋敷でもそうだったように、男は勘がいい。ヌシの時と同様に、気付くのに大して時間は掛からないだろう。

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