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それが答え?

「っ……っ」  アスカはどうにかこうにか言葉を選び、その続きを悔しげに呟いた。 「っ……たく」  同時に役目を終えた空間が閉じられ、アスカに流れる時間も動き出す。瞳にもテーブルの向こうに座る男が映される。そして否応なしに理解させられた。完璧な無表情は男の美を象徴し、精霊を楽しませる芸術品だが、微笑ましい崩しを隠し持つ造形美でもあったのだ。  聖霊にそうした不埒な喜びを教えたのは、細く柔らかな声に他ならない。幻の空間といった男には入り込めない場を作り、アスカの脳裏に魂の記憶を蘇らせたのも、不動の完璧さに興趣を添えたい聖霊の願いによる。ついでにアスカが激昂し、大暴れをしてくれたのなら、大勝利だった訳だ。それだけは阻止出来たことになる。  言葉にされない精霊の思いは推し量りにくいが、大体においてアスカは正解に辿り着く。個室に舞い飛ぶ光に悪びれた様子はない。飽くまでも明朗快活に煌めいている。それが答えということだ。

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