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何が知りたい?
「ふふん」
アスカは鼻先で軽く笑って、男を眺め直した。男の疑いはさらに深まりを見せ、銀白色を帯びた錫色の瞳に現した微かな翳りも色を濃くする。そこに〝昔を今に慕うたのよ〟という台詞を思い、にやりとしてから言葉を繋いだ。
「あんたには昔も今もおんなじみてぇだが、俺にしたらさ、今しかねぇのよ」
そこで口調を強くし、詰め寄るように続けて行く。
「で、あんたはどうよ?なめ腐った目で見てんのは、昔か?今か?」
痛いところを衝けたようだ。既に男の顔に完璧さはなかったが、自らを守る砦として来たはずの無表情さをもなくしていた。聖霊になのか、アスカになのかはわからないが、男の麗しい顔には激怒といった感情が表されている。その変貌がアスカにはおかしかった。恐怖を思う場面にも、抑制のなさに笑いが浮かぶ。
「なれば私も問おうか、君は何が知りたい?」
男に突然そう切り返された時にも、アスカは口元に笑みを残したままに唖然となっていた。
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