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早々に切って?

「は……い?」  アスカには他に言いようがなかった。直接に聞くのが早道だと考えてはいたが、男に喋らせるにも、騙し騙し話を持って行ったあとのことだった。それが余りにあっさりと叶ってしまうと、逆に焦らされる。ここでも現実は厳しいようだ。返す言葉が見付からず、やはり奥歯を噛んで耐え忍ぶことしか出来ないでいた。 「……っっ」  アスカは悔しげに男から視線を外した。他に見るものがない以上、視線は自然とヤヘヱに向かう。ヤヘヱは専用の特別席にはいなかった。どこにいるのかは、男が片腕をテーブルに乗せたことですぐに知れた。瀟洒なカジュアルスーツの袖口から、ほんのりと赤い煌めきが漏れ出ている。〝闇の瘴気〟で酔っ払おうが、ヤヘヱが自分の居場所に迷うことはない。男の腕時計にちゃっかりと移動し、そこで心地良さげにうとうとしている。 「っ……たく」  早々に切って正解だったと、改めて思わせるヤヘヱがアスカには憎らしくてならなかった。

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