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返しがてら誘う?

 アソコにも人生がある。それを使わないままに終わらせるのを忍びなく思ってのことなのに、ひっそりと諫めるように出られては、アスカにすれば生意気で憎らしい奴となる。潤いのある毎日を興奮と共に楽しく過ごさせてやろうというのだ。相手についてぐだぐだと文句を言う資格はアソコにはない。 「てか……」  興奮を思うと、やはり頂き損ねた愛欲の炎が脳裏を掠める。同時に、それ見たことかと、アソコがぴくりとしたのにはイラつかされた。男が愛した女の魂を宿しているだけに、アソコの言い分には殊更腹が立つ。 「クソったれがっ」  むかつく思いが口に出た。男と決別すると決めたからには、愛欲の炎は別の誰かに期待する他ないのだが、ふと思い出したことで、腹立ちも消える。アスカは勝ち誇った気分で続きを口にした。 「こいつを返しがてら誘うか?」  そして美味しい匂いのする籐編みの手さげかごに鼻をひくつかせ、にやにやしながらポーチに立ってドアを開けた。

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