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聞こえて来ない?
「あっちへ行けっての」
その程度で諦めるようでは、風たる風の面汚しだ。アスカにむすっとされようが、お構いなしに吹き付ける。花びらを吹き飛ばされたのを根に持つアスカの思いは完全無視で、構って欲しげにフードを揺らす。それをアスカは虫でも払うように追い遣り続けた。合間合間に、遅足に四の五の言ってうるさいヤヘヱを怒鳴り付けてもやった。そうこう忙しくするうちに、いつしか中心街のそのまた中心に建つ『人間外種対策警備』の瀟洒な二階建てのビル近くに着いていた。
〝うぬ?〟
最初に警戒気味な声を出したのはヤヘヱだが、間を置かずにアスカも異変を察知する。同時に自動ドアを避けるようにしてビルの入り口に立つ青年を瞳に映す。
「うん?」
青年はこちらに顔を向けていた。人間なのは確かだが、精霊達のかしましい喋りが聞こえて来ない。モンスターを前にした時のように静かだ。そこがアスカには不思議というよりも不気味に感じてならなかった。
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