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二人だけでする娯楽?
「おいっ」
こちらを向かせようと呼び掛けてみても、男の様子に変化はない。これではアスカもお手上げだ。むすっと頬を膨らませて、睨み続けるしか出来ないことになる。お陰で青年を見遣った男の瞳に、生来の気質である激しさが映し出されていたのを知ることにはなった。
ヴァンパイアへの変異を可能にするものは、良きも悪しきも純粋で一途な激しさだ。そうした激烈な感情が変異後の人生においては弱みに変わる。無表情は不死を生き抜く保身の術でもあったのだ。それなのに男は瞳に感情を映した。青年の素性を理解してのことのようだが、そうなるとアスカには男の美貌がことさら目に付き出した。矛盾が彩る美とでもいうのか、無表情と乖離する瞳に興味が湧く。
「へぇ……」
男が見せた感情は怒りというより嫌悪に近い。そこにすぐ、硬派なアスカはアルファとのバトルを思ってしまうが、あれは二人だけでする娯楽だ。人間相手に出来ることでないのもわかっている。
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