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リンが現れた?

「うーん」  アスカは悩めるように唸った。アスカ自身、男の激しさを映す瞳を恐ろしいとは思っている。罵ることで強気に出るような口さがない者達と違って、気のせいにしてしまえる程度の恐ろしさだが、完全否定出来ないのが心苦しくもあった。そうした雰囲気が青年にはなかった。男が向ける瞳に上機嫌といった様子でいる。 「てか……」  今になってアスカは青年の声掛けに答えていないのを思い出した。厄介事にしかならないが、相応に返事をするのが礼儀ではある。とはいえ、優しげなその声音に警戒したのは確かなことだ。流儀に反しようが、フードで顔を隠したことで十分にも思えた。それにその瞬間から、青年に手出し不可といった人間上位の慣行にならう必要が出て来ている。どう転んでもヴァンパイアには不利な状況だ。取り成す為にも男をこちらに向かせるべきなのだが、『人間外種対策警備』の自動ドアが開き、受付人狼のリンが現れたせいで、その気も失せた。

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