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呼吸を整え?
正直、アスカには焦りがあった。男の首に腕を掛けたからといって、我が身の無事の確保とはならない。完全なる無事の確保とは、男の胴を両足で挟み込み、体全体で絡み付ついてこそだろう。そこに至っていないのだから、焦りもする。となれば、迷っている暇はない。何と言っても、喧嘩上等で鍛えた足には自信がある。それで即、行動に移したのだが、勢い余ってロングドレスの縫い目を裂いてしまった。
「くっ」
使い物にならなくなったドレスを残念には思ったが、構っていられない。その犠牲は有意義であり、太腿を晒すことになっても本望と言える。
「ううっ」
その上で、アスカはややおとなしめに唸り、頭を押さえる手をどけるよう男に促した。男も理解したようで、まともな会話が出来る程度に緩めてくれていた。そして押さえ付けられたことで苦しくあった呼吸を整え、十分と感じたところで声を潜めてゆったりと脅し付けるようにこう言った。
「クソっ……たれがっ」
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