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我が身の無事を?

「うぅっっ!」  これが恐怖の叫びであるのを、アスカも否定しようとは思わなかった。今のこの状況が闇の領域に聳え立つ巨樹の天辺に運ばれたのと似ていることはわかっている。しかし、両足がぶらんぶらんしているのだ。背中に添えられた男の手がしっかりしたものであっても、巨樹の天辺でのような安全が得られているとは言い難い。もう片方の手で、まともに話せないくらいに顔を押さえ付けられているのが救いに思える程の不安定さだ。その唯一の安心材料が男によって作られた暗闇とは皮肉な話だが、そこからの解放が今のアスカには恐怖となるのは間違いなかった。 「うぶっ!」  素っ頓狂な声にはなったが、この叫びはアソコを思っての悔しさだった。アソコは先に身の安全を図ったに過ぎなかった。危殆に瀕してわかり合えたと思った自分が間抜けなだけと、それが知れたのだ。アスカも即座に両腕を男の首の後ろに回して、我が身の無事を確保するしかないことになる。

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