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返しは爽やかに?

 男が〝君〟と呼んで誤魔化していることに、アスカは気付くべきだった。青年へと向けた嫌悪の眼差しも、胸の奥深くに宿る女を思ってのことであり、その女を手に掛けた家臣を恨んでいないからといって、嫌悪していないとは言えないのだ。元々が一途な激しさを持つ者にしか成し遂げられない変異ではある。ヌシに弄ばれないよう身に付けた完璧な無表情が、嫌悪の情には無用となるのも、極めて真っ当なことに思えて来る。  とはいえ、青年の魂に謀反人の家臣が潜んでいるとしても、男がそれを言葉にしないからには、アスカも無視するより他ないことになる。男を気遣った訳ではない。自尊心からしたに過ぎない。そのせいか、再度確認しようと口にした時には嫌みな調子になってしまった。 「俺……ね?」 「ああ、君だ」  それの何が嬉しいのか、男の返しは爽やかに響く。しかも微笑みを絶やさずに、緩やかに頷きつつ発していたのだ。アスカがむすっとしたのも当然と言えた。

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