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俺……か?

「ふざけやがって」  そう繰り返したところで、アスカの気持ちは収まらない。蹴りの一つでも入れてやりたいところだが、それがかえって惨めにも思えて我慢した。青年へと向けた嫌悪の理由を知っては、墓穴を掘りそうで不安になるからだ。しかし、やはり男のこの台詞にはむかついてならなかった。 〝君が為になしたこと〟  男にとっての〝君〟が誰であるのかはアスカも承知している。男は楽しげに、頬まで染めて言葉にしたのだ。聞き返すまでもない。そのふざけた扱いに腹を立て、むかつくままにかかわるのも、また惨めというものだ。複雑怪奇なむかつきには、怒りに触発され、アソコと一緒に欲情し、男の〝君〟に堕落し兼ねない危うさがある。 「クソがっ」  取り敢えずアスカはその悪態でむかつきを抑えた。精霊達の関与がないとしても、偶発的な状況を疑うのなら、冷静さが鍵となる。それであれやこれやの思いを宥めるように、最初に戻ってこう言った。 「俺……か?」

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