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それは凡庸と?
「クソっ」
アスカは不満げに呟いた。浅はかな考えに迷わされた自分への悪態だったが、ナギラの耳にはそういった風に響かなかったようだ。お仕着せ姿のテディベアのようなふわふわ感も既になく、屋敷を差配する者らしい落ち着きを見せて、アスカに言葉を返していた。
「事態を収めに参りたく存じます、退出するをお許し下さい」
許可を求められたことには驚いた。それでもナギラに御台と呼ばれたのを思えば、聞き返さずにいた方が無難なことはアスカにもわかる。
「ああ、なめられんじゃねぇぞ」
「かしこまりました」
ナギラはその口調のままに廊下へと赴き、糧達に静かにするよう促していた。アスカに聞かせようとしてなのか、威厳に満ちた声音が食堂にまで届く。威厳も相手によっては脅威となるが、それを脅威と気付けない者達が好戦的になるのも常套ではある。
「うるさい!」
糧達はヌシに盲目的に隷従し、権威を笠に着る。そしてそれは凡庸と言い換えられもする。
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