893 / 962
ただのなすり合い?
「おまえには……」
アルファの怪しい可愛さは鼻に付く。それでなのか、アルファは男に傾けていた頭を元に戻して、逃さないとばかりにがっちりと、有無を言わせぬ素早さで片腕を男の肩に回していた。親愛の情を見せたにしては乱暴だが、男を押さえ込んだのは確かだった。アルファの筋肉が硬く強張っているのだから、アスカにも思い違いでないのがわかる。
「ふふ、つらいことだよね?」
アスカには意味不明な台詞も、次の瞬間、腹を押さえて腰をかがめるアルファを目にし、それが男がなした爆発であるのは理解が出来た。
「ひどぉい」
拗ねた口調が嘘臭く、肘鉄を食わせられたと嘆く様子は滑稽でしかないのだが、こうしたクソ寒々しい演技にも価値はある。アスカに何をさせるにしても、男に言わせたいアルファの思惑が透けていた。となれば、少しも可愛くない肉の塊の甘ったれ口調も、沈黙に彩られた美貌の無表情の会心の肘鉄も、ただのなすり合いということになる。
ともだちにシェアしよう!

