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理解はしよう?
「ったく」
アスカはイラっとして、心持ちきつめに言葉を放った。
「どっちでもいい、さっさと言えよ」
「ほぉら、怒らしちゃったじゃないか」
ここで不意に、アルファのふざけた調子にほんの微かだが躊躇いが浮かぶ。それが不思議に思えて、アスカは男を見遣った。完璧な無表情には彫像のように映える美貌も、怒りに激した感情に侵されては残念なものだ。男は厳しい眼差しのままに顔を歪ませていた。鬼のような顔付きといったところだが、その程度の脅しがアルファに通用するはずもない。お陰でというべきか、時間を無駄にしたくないアスカと無自覚に連携する形になった。
「ああ……」
男は我慢も限界と沈黙を破り、軋む声音で腹立たしげに続けた。
「なんたる嘆かわしさか」
と同時に一瞬の動きでアルファとの間に距離を作り、捨て去った無表情を元に戻して、声音も甘く滑らかに蕩けるような美声に変えてこう言った。
「だが、人狼であるそなたの事情、理解はしよう」
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