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救いたい程に?
「こいつ……」
青年の魂はアスカにすがって抜け出そうという気でいるのかもしれない。そう思う反面、単に引きずり込もうとしているだけのことが、アスカにはわかっていた。
「ったくよ」
アスカは青年の魂に意識を向けて、苦笑気味に続けた。
「あんた、マジクソ、しつけぇのな」
青年の―――というより、謀叛を起こした家臣の男への感情を言葉にするのなら、恋情という他ないのだが、その奥にあるものは、肉欲による捌け口を持たないことで増大した狂気と言えていた。そこに憎しみはない。重臣の一人では飽き足らず、自らを唯一無二の者と扱わせ、そういった意味での支配と束縛を望んだに過ぎない。それが叶わないとなった時、その手で男の死を得ることにした。男を切り刻み、迸る血にまみれることで、行き場をなくした熱情に意義を感じようとしたのだ。そうした願いも男に女が、人間であることを捨てても救いたい程に愛する女がいたことで、儚く消えたのだった。
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