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第21話(最終話) 山の話5
――カエデ、命は助かったけれども、なかなか動けるようにはならなくてなぁ……ここに辿り着くまでにずいぶんと無理をしたせいだろう。あんたのように、狐火の案内もなかったし……あ、そうそう、案内ったって、狐の連中は親切であんたをここへ導いたんじゃないから、信じちゃいけないよ。あんたが妖怪に喰われずにすんでるのはホント、たまたまなんだから。
……おいら達はカエデを助けるため、神様に教わったとおり、毎日血肉を削り取って汁を作り食べさせた。おいらは小さいからたいした量はやれなかったが、くまちゃんとぎいちゃんはでかいからたくさん肉が取れる。ふたりは心配のあまり、ほっとくと腕でも脚でも、まるごとやっちまいそうな勢いだった。でもカエデが喰いきれないほど作ったって無駄だからな、おいらが必死になだめて押し留めたよ。
ただいくら血肉を食べさせても寝床から起きあがるのがやっとで、それ以上元気にならないんだ……おいら達は困って、また神様のとこに相談しに行き、結局、人のお医者にみせる事にした。
――そうして探し当てた診療所で手当を受けて、カエデはようやく治ったんだ。今世話になってる先生たち、腕は確かだよ。
だけど――おいら達の血肉で生きながらえさせてしまったからには、もうカエデだけを人里に戻すことはできない。仮にできたとしても、またここに帰ってきてしまうかもしれない。あんな無茶で危ない旅、二度とさせるわけにゃいかない。それに、おいら達だってカエデとずっと一緒にいたい。もう手放したくない……だからみんなで相談して、じゃあおいら達も、ヒトに化けて、カエデの寿命がある間は人里に住もうやってことになった。
ほんとは禁忌とか色々あって、山から離れちまうわけにゃいかないんだけど……山の神様に必死に頼み込んで、ヒトも襲わないって誓いを立てて――町でやたらとヒトをとって喰っちまっちゃ大ごとになるからな――で、特別に許してもらったんだ。言っとくけど、これってすごい事なんだぜ。まあおいら達は古株だから、そこらの妖怪とは格が違うんだな。山の神様の信頼も厚いわけよ。
そうして――今じゃ住むのに良い場所も見つかって、ま、うまくやってる。カエデにも、ほんとに仲良くできる友達ってもんができたしな。今の友達はおいら達の事もわかって付き合ってくれてるから、心底気が許せて楽しいんだそうだ。カエデがあんなに嬉しそうにしてんのを見ると、友達っていいもんなんだなって気になってくるよ……面白いな、ヒトは。
おいら達妖怪の血肉のせいでカエデは普通とは違う体になっちゃったけど、見た目は立派にヒトだよな?だろ?今じゃすっかり元気になって、力もついた。おいら達に色々人里の事を教えてくれるよ。学校とやらにも行ってるし、かしこい子なんだ。――え?カエデ?なんか言ったかい?大して成績は良くないって?そんなに照れなくてもいいじゃんか、なあ?そ、カエデはいつだって、おいら達の自慢なんだから。
ああもうなんだか外が明るくなってきちゃったな。つい話すのに夢中んなって、寝かせてやる間がなかった、悪かったね。ん?どうせ怖くて眠れやしなかったからかまわないって?はは、そっか。けどさ、あんたは運が良かったよ、迷い込んだのがヒトは喰わないって誓いを立ててるおいら達の棲み家で。普通の妖怪に出くわしてたら襲われて、今頃はあっさり喰われちまってただろうよ。ここいらで行方知れずになっても、こんな山深くまではあんたの仲間も探しに来てはくれないだろうからねえ。
取りにきた荷物もあったし、そろそろ行くか。道があるとこまであんたも連れてくから、そこのくまちゃんの背中に乗るといい。毛がちくちくしてちっと痛いだろうが、がまんして落ちないようしっかり掴まれよ。道へ出たら自分で歩いとくれ。人里に近付いたら俺らこのままの姿じゃいられないもんでな。
――さてさて、こっからはヒトが作った登山道だ。ここまで来たらもう迷わないだろ――うん、あんたはそっちの道を行くのか。よしよし、気をつけてな。
じゃ、今度山に入るときは、あんまり深いとこへ迷い込まないよう、くれぐれも用心すんだぞ。この山だったら、麓にヒトが祭ってる古いお社があるからお参りしとくといいよ。そしたらあそこの神様のお護りがついて、狐火なんかにはたぶらかされなくなる。
あんたらにはもうあまり感じられないかもしれないけど……なかなかどうして、ああいうちっぽけな神様だって、まだまだ頼りになるお力は持っているんだぜ――
**終**
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