65 / 173

第5話

「可愛く無いって何!?初めて言われたんですけど!!」  立ち上がって、大きな声でまくし立てる。  さっきまで使ってた敬語もどこかへ行っている。  「僕がちゃんとありがとうって言ったのに!ちょっと偉いからってさ!」  「俺、一応、先輩なんだけどな。」  「それは、ごめん、なさい」  口ではそう言うが、ほっぺたを膨らませて怒りをあらわにしている。  「まあ、今の素の方が可愛いよ。」  彼は目を見開く。  「そんなこと言われたの、初めてだ。」  彼に何があったのかは分からない。が、彼が猫を被るようになった背景は深いような気がした。  「なんで目薬なんて使ったの?」  「その、葵さんが場合によっては処分があるかもって言ってたから、色仕掛けで委員長を落としておこうって。」  あれで色仕掛けのつもりだったのか。  「そ。多分それは葵の脅しだよ。今まで君が色々やってきた問題児だから。そう言えば大人しくなるでしょ?  今回の件に関しては何も無いよ。」  「なんだ。」  より一層彼の表情が砕ける。  「まあ、俺としても厄介ごとが減るのは嬉しいかな。あまり仕事したくないし。  でも今回のように、変な奴に捕まったらいつでも呼んで。助けに行くから。」  「別に助けてもらわなくても一人で片付けられるので大丈夫です。」  「…やっぱ可愛く無いな。」  「ねえ!!」

ともだちにシェアしよう!