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その時は突然やってきた。
オメガという性に生まれた割に、俺のこれまでの人生は波もなく穏やかだったと思う。
「織田 さーん、織田 優一 さん。」
男性専門のオメガ産科のクリニック。
待合室はオメガ男性でごった返していた。
看護師に名前を呼ばれて、待合室の長椅子から立ち上がる。
目が合って看護師は、俺を第2診察室へと促した。
問診で、発情期の遅れと倦怠感を含む妊娠の諸症状と、性行為があったこと、簡易検査薬での陽性を伝えていた為か、尿検査をして待合室で少し待たされただけで直ぐに診察室へと呼ばれ、医師から妊娠を告げられた。
まだ胎児が小さい為、腹の上からではなく、下にエコーを突っ込まれ子宮口から胎胞を確認。
エコー画像にそら豆みたいな形が映し出された。
「妊娠されてますね。独身との事ですが、出産を希望でよろしかったですか。…色々な事情で堕胎を希望の場合は……」
「産む方向で考えてます。」
男性医師で、声も物腰も柔らかで安心感があった。
自宅からも近いし、ここに通う事にしようと決めた。
「そうですか。おめでとうございます。予定日は次回の検診で確定します。では出産に向けてしっかりサポートしていきますので、安心してくださいね。」
「はい。」
「こちらで出産を希望される場合は早めのご予約をお願いしてます。里帰りされる場合は紹介状もお出ししますから。あ、それとパートナーの方にはこのパンフレットをお渡し頂いて、妊娠に関する疑問や不安があればいつでも相談ください。まだ胎児には影響ないので、つわりが酷い間は好きな物を好きなだけ摂るようにしていいですからね。食べなくても胎児に影響はないですから、あまり心配しないように。」
いつもパターンで言い慣れてるのだろう。
流れるようなインフォメーションだ。
「次は…四週間後にいらしてください。」
医師からはオメガ男性の妊娠、出産に関するパートナー向けQ&Aというパンフレットを手渡された。
その後も医師と看護師、受付の事務員と軽く会話をして、会計を済ませ病院を後にした。
市役所で母子手帳の交付をしてもらい、帰宅。
食欲も湧かないが、軽く胃が受けつけそうなものだけ購入してきた。
自宅アパートの隣のドアをじぃーっと眺めつつ、一つ溜息を落とす。
あのタイミング……よかったのか悪かったのか。
俺にはよく分からなかった。
既に親元を離れて10年、一人暮らしも板につき、性欲の強いオメガ性にあるはずの俺は、他人より性欲が希薄なのか、発情期だって抑制剤と自慰で上手に乗り切っていた。
前回の発情期。
発情期予定日の前日から気だるさを感じていた為、予定日当日の朝から発情を感じて早々に、電話で勤務先へと発情休暇を申請し、自宅へ籠る準備を始めた。
比較的軽い俺の発情期は、いつもキッカリ三日。
フェロモンが漏れてるのも考慮して会社には五日程出られない。
周期も遅れない為、営業職でも計画的に仕事をこなせば同僚らのフォローにも助けられつつではあるが大きなトラブルもなくやっていけていた。
着替え、タオル、シーツ、簡易な食料、自慰用の医療用ディルド……。
あ、やば。
ティッシュペーパーとトイレットペーパーが少ない。
というかほぼない。
今使いさしのティッシュで終わりである。
いつもならたっぷり買い置きしてるのに。
他のはどうにかなるとしても自慰のお供にティッシュペーパーがないと…。
ベッドで横になりながら、スマホ片手にネットスーパーで足りない日用品を数点決済して、配送の手続きをした。
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