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番の印をつけたなら(8)

「加藤くんさ~、花山商事の事でちょっと聞きたいんだけど。」 佐山さんの事で、前担当者の加藤くんに話を聞いてみようと思った。加藤くんは二つ返事で了承してくれた。 が、いくら話を聞くといっても話し方を間違えたら、俺は誹謗中傷野郎だ。 慎重にしなければならない。 という事で、とりあえず昼に飯を食いに行く事にした。 「加藤くんは花山商事には、どれくらい営業行ってたの?」 会社からほど近く、安くて旨い「なかむらや」という定食屋の座席が運良く陣取れた。 加藤くんはチキン南蛮定食、俺は花籠(はなかご)御膳(ごぜん)定食とかいう小さな小鉢が13もついた、刺し身も鶏唐揚げも乗っかったいいとこ取りの定食にした。 ランチタイムは飯も味噌汁もおかわりし放題というから、昼時の男性客が多いのも頷ける。 「えーと、正確にはしぃーごーろく…七か月ですね。元々この得意先は本田さんが新規開拓したとこですよね。」 本田というのは、俺と同期のアルファ男性営業マンだ。 成績も良く、花山商事は俺が妊娠中に本田が新規開拓したのだが、俺が育休中に地方の営業所所長として栄転となったらしい。 俺と同じ29歳の本田が数年~10年以内で地方の営業所所長を務めたら本社で重要ポストに戻ってこれるのだ。 三十代で本社に戻ると考えたら、空恐ろしい出世だ。 本田が地方へ行き、うちの部署の部長が暫定的に担当を引き継いでいたが、加藤に担当が回ってきたらしい。 「うん。俺がまだ産休入る前に新規開拓してたよな。デカい仕事取れたって喜んでた。」 定食がきて、箸を進めながら話を続ける。 「はい。あれから花山商事とは三千万前後の仕事が4回ほど入ったので、初年度だけで億超えの売上になりました。」 「うん。営業実績見た。あれから花山商事の担当はずっと山下課長と佐山さんなのか?」 うちの担当者は基本一人だが、花山商事は担当者に補佐(サブ)をつけて営業の人材育成にチカラを入れている。 「いえ。前は山下課長と、補佐に香取係長って方が担当でした。佐山さんは俺が担当になった頃、先方の担当補佐になりましたね。」 「そうなんだ。佐山さんは担当違ったんだ。」 「あ、でも北條さんとはニアミスしてますよ、たぶん。」 「ん?ニアミス?」 「はい、香取係長って今ホクトグループ本社の第一企画部の担当なんです。その前に担当してたのが佐山さん。……だから、北條さんがホクトグループの担当だった頃、ホクトグループの企画部フロアで、佐山さんとニアミスしてるかも知れません。」 「………………。」 佐山さんって悠斗《はると》くんとこの部署担当だったのかぁ。 もしかするとその頃から、何か怒りを買ってるのかも知れない。 俺はある一つの仮説を思いつき、深く息を吸い込んだ。 こりゃ家に帰って悠斗くんにも佐山さんの事、聞いた方がいいのかもしれない。

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