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番の印をつけたなら(9)

「ご馳走様でした。あんまり役に立たないような話ばかりだったのに。」 「いや、教えてくれてありがとう。また色々訊ねるかもしれないから、その時はまた頼むよ。」 午後から俺達は別々に営業回りという事で、そこで別れた。 そう。 花山商事だけが得意先ではない。 考える事はいくらでもあるのだ。 ……………………………… 龍も寝て、二人の時間。 見るともなしについているテレビを、恋人繋ぎにした手を握りしめて見つめていた。 リビングのソファに沈み込みながら、どう切り出そうか俺は悩んでいた。 「悠斗(はると)くん。」 「なんですか?優一さん。」 「………………。」 名を呼びかけたもののその先に悩んでしまい、二の句が告げないでいると、悠斗くんが切り出してきた。 「なんか悩んでますよね?」 「……うん。」 「仕事?」 「…………うん。」 香るフェロモンでバレたのか…。 悠斗くんにはお見通しのようだ。 この半年にあった事を掻い摘んで話した。 自分の番がまさか、子供じみた虐めを受けていたなんて思っていなかったらしく、悠斗くんは驚愕を隠しきれない顔をしていた。 そして今日、加藤くんに聞いた話も含めて、花山商事の佐山さんと、ホクトグループ第一企画部の関係で、何か俺に関わるようなこととかないのか。 少し遠回しに話したが、要は悠斗くんと佐山さんの間で何かなかったか? と俺は考えてたのである。 「……優一さん。佐山さんについては、僕に任せて貰えませんか?」 「……なんか悠斗くん、知ってるんだ?」 軽く頷く悠斗くん。 「……そ、うなんだ。」 少なからずショックを受ける俺。 これ以上どうしようもない。 悠斗くんに任せてみるのも打開策の一つかもしれない。 あれだけ敵意剥き出しなのだ。 仕事上、特に何かあった節はない。 ならば俺が何かやらかした筈だが。 俺にそんな価値はない。 という事は、俺を通して違うものを見ているはず。 俺を通して価値のあるものと言ったら、番の悠斗くんだろう。 佐山さんは営業担当で、過去に悠斗くんと仕事以上の繋がりがある。 そう確信したんだ。

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