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第1話 罪音(1)

 一日精密検査で留守をしていた入江竜司(いりえりゅうじ)は、同居人である真田壱流(さなだいちる)の帰りが遅いのが気になっていた。電話が一本入って、ちょっと飲んでくるなんて言っていたが、アルコールが入った時の壱流が色気垂れ流しなことを、教えてやるべきだろうか。  リビングで以前ビデオに撮った自分達の映像を見ていたら、玄関の方で気配がした。 「壱流、おせえよ」 「……遅くなるって、言ったろう。飯は食ったのか?」 「食ったけどよ」  テレビに映り込んだ映像をちらと黙視して、壱流は感心した顔になる。 「えらいな竜司。ちゃんとノルマこなしてたんだな」 「仕方ないだろうが」  ノルマ、というのは、過去の映像チェックだ。忘れてしまうので、たまにこうやって見返している。  竜司は昔頭部に負った大怪我のせいで、何かのきっかけで記憶がリセットされる、という障害を持っていた。  今日ここにいる竜司は、もしかしたら明日はいないかもしれない。そういう爆弾を常に抱えた男、それがZION(ザイオン)のギタリスト、入江竜司だった。燃えるような赤い髪が印象的な、長身のいかつい男。  対外的に、記憶障害のことは秘密になっている。  誰かと仲良くなっても、いつそれを忘れてしまうかわからない。不具合が生じないよう、本当は結構気安い男なのに寡黙なキャラクターを演じている。 「今日は西野さんのお勧め物件を見に行ってみたんだ。ほら、竜司にも見せただろ、三味線の動画。眞玄(まくろ)っていうんだけど」 「ああ。あの、三味線小僧。会ったのか」  昨日西野から壱流に転送されてきた動画を、竜司も見た。興味深かったのは確かだ。 「小僧って……そりゃ俺達に比べたら小僧だろうけど」 「顔が気に食わねえ。あれ絶対タラシだと思うぜ」 「タラシだろうがなんだろうが、そんなの関係ないだろう。ギター、結構すごかったよ。歌も巧いけど、俺はギターに特に惹かれた。三味線かなりキャリアあるって聞いたし、弦楽器そのものが得意なんだろうね、多分」 「俺と比べて言ってんのか」 「そういうことじゃない。……すごいよ彼。竜ちゃんのギター、暗譜して、完コピ出来てた。好きにやれって言ったら、今度は自分のカラーを出してきた。それも新鮮で良かった。まあ、逸材だな。いいの見つけたと思うよ、西野さんも」 「……へえ」  竜司はちょっとびっくりしたように口を閉ざした。

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