1 / 18
第1話 罪音(1)
一日精密検査で留守をしていた入江竜司 は、同居人である真田壱流 の帰りが遅いのが気になっていた。電話が一本入って、ちょっと飲んでくるなんて言っていたが、アルコールが入った時の壱流が色気垂れ流しなことを、教えてやるべきだろうか。
リビングで以前ビデオに撮った自分達の映像を見ていたら、玄関の方で気配がした。
「壱流、おせえよ」
「……遅くなるって、言ったろう。飯は食ったのか?」
「食ったけどよ」
テレビに映り込んだ映像をちらと黙視して、壱流は感心した顔になる。
「えらいな竜司。ちゃんとノルマこなしてたんだな」
「仕方ないだろうが」
ノルマ、というのは、過去の映像チェックだ。忘れてしまうので、たまにこうやって見返している。
竜司は昔頭部に負った大怪我のせいで、何かのきっかけで記憶がリセットされる、という障害を持っていた。
今日ここにいる竜司は、もしかしたら明日はいないかもしれない。そういう爆弾を常に抱えた男、それがZION のギタリスト、入江竜司だった。燃えるような赤い髪が印象的な、長身のいかつい男。
対外的に、記憶障害のことは秘密になっている。
誰かと仲良くなっても、いつそれを忘れてしまうかわからない。不具合が生じないよう、本当は結構気安い男なのに寡黙なキャラクターを演じている。
「今日は西野さんのお勧め物件を見に行ってみたんだ。ほら、竜司にも見せただろ、三味線の動画。眞玄 っていうんだけど」
「ああ。あの、三味線小僧。会ったのか」
昨日西野から壱流に転送されてきた動画を、竜司も見た。興味深かったのは確かだ。
「小僧って……そりゃ俺達に比べたら小僧だろうけど」
「顔が気に食わねえ。あれ絶対タラシだと思うぜ」
「タラシだろうがなんだろうが、そんなの関係ないだろう。ギター、結構すごかったよ。歌も巧いけど、俺はギターに特に惹かれた。三味線かなりキャリアあるって聞いたし、弦楽器そのものが得意なんだろうね、多分」
「俺と比べて言ってんのか」
「そういうことじゃない。……すごいよ彼。竜ちゃんのギター、暗譜して、完コピ出来てた。好きにやれって言ったら、今度は自分のカラーを出してきた。それも新鮮で良かった。まあ、逸材だな。いいの見つけたと思うよ、西野さんも」
「……へえ」
竜司はちょっとびっくりしたように口を閉ざした。
ともだちにシェアしよう!