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第2話 罪音(2)

「あと、喋ったらいい子だったよ。敬語使えないけど、なんか気にならない。……でさ。竜ちゃん、俺考えたんだけど……俺達の曲は、子供みたいなもんじゃん?」 「……壱流、俺達は子作りをしてたのか? おまえの子供はまふゆだけかと思ってた」  まふゆ、というのは昨年末に生まれたばかりの壱流の長女だった。公表されていないが、壱流は妻子持ちだ。  妻子持ちなのに、壱流は竜司と暮らしており、いわゆる肉体関係を築いている。普通の恋人同士とは絶対的に違う、奇妙な依存関係で成り立っていた。 「物の喩えだよ。で、子供を里子に出すようなイメージで、眞玄に、曲を提供出来たらと思ったんだ。ほら、なんか新しいこと考えろって言われてるじゃないか。それの一環」 「随分お気に召したようだけど、まさか壱流、そいつに惚れたわけじゃないよな?」 「俺は男には興味ない」  不機嫌そうに呟いた竜司に、壱流も不機嫌で返す。 「……勿論竜司の承諾がなければ無理なのは知ってる。だから聞いてる」  壱流は冷蔵庫からペットボトルの水を出して、それに口を付けながら、竜司にしてみれば奇妙な発言している。 「なんで急にそんなこと?」 「なんでって……俺には、まふゆがいるじゃん。でも竜司には、子供いないから……ちょっと俺以外の為に曲……つまり子供みたいなもんを作って、みても……いいんじゃないかって。ZION以外に足跡を残す、という意味で」  言い淀んだ壱流に、立ち上がった竜司の大きな影が近付いた。壱流よりもはるかな高みから見下ろされると、かなり威圧感がある。  竜司が腰を屈めて、壱流の目線に合わせてきた。 「くだらねえな」 「……そんな言い方ないだろ。なんか今日、虫の居所悪いのか」 「俺に変な気を使うんじゃねえよ。俺は壱流がいれば、それでいいんだよ。……だけど、壱流がそうしたいってんなら、作ってもいい」  そのまま竜司の顔が近付いて、壱流の唇を軽く奪う。 「酒くせえな」 「たまにはいいだろ」 「気を付けろよ……壱流は無意識にフェロモン撒き散らしてるからよ。……なんてったっけ? 三味線小僧」 「眞玄、だよ」 「おまえ、名前に『ま』がつくのが好きなんか? なんか縁があるよな。まひる、まふゆ、そんでまくろ? どういう字書くんだ?」 「俺の真田の字の、旧字体。それと、玄人っていう字の……」 「なにかと縁がありそうな……まあ、いいよ。とにかくおまえが気に入ったんなら、なんかあるんだろ。だけど、そいつが壱流に変な色目使ったりしたら、なしな」 「あるわけないだろう。馬鹿じゃないのか。誰も彼も竜司と一緒だと思うな」 「そういうこと言ってると、今夜は寝かせねえぞ」  竜司が言うと冗談には聞こえない。本気でやりかねない。壱流は嘆息し、その大きな体を退けた。

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