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第18話 エネミー・インサイド(6)

(……何この展開)  壱流は浴室の扉の前で、立ち尽くしていた。  少し前に竜司に様子見の電話を入れたのに、全然出ないものだからやはり心配で来てしまった。  二人ともどこにもいないので、探していたら何を仲良く一緒に風呂に入っているのだ、という現場に遭遇してしまった。現場とは言っても、扉越しなのだが…… (リスカの痕、見られてた……まずった)  その発言からの展開が気になって、息を潜めて脱衣場で中の話に聞き耳を立てていたのだが、途中から妙な雲行きになってしまった。  音声しか聞こえないので、一体何を繰り広げているのかはわからないが、穏やかではない。  わけがわからない。 (竜司も眞玄も、何してんだ)  ――その時、がちゃん、と浴室の扉の開く音がした。 「あれ? 壱流さん……どしたの」  しまった。  眞玄が不思議そうな顔をして、壱流の目の前に突っ立っていた。ちらと中を見ると、竜司が湯船で呆れたようにこちらを見ている。せっかく別に住んでいるよう見せかけたのに、何をのこのこ来ているんだ、という顔だ。 「いや……あの……なんか、いろいろ心配で。ごめん」  ここにいる理由をよく説明出来ないで、しどろもどろになっている壱流に対し、眞玄はにこりと笑んだ。特に違和感のない、竜司といざこざがあったとも思えない自然体だ。もしかして全部壱流の妄想だったのか? 「なんか変な音、聞こえたんだけど」 「あー、竜司さんが、悪ふざけ?」  壱流の苦悩など我関せず、といった感じで、その辺にあったタオルでがしがし体を拭きながら、眞玄は軽く提案してきた。 「壱流さん、一緒に寝る? 俺リビングで寝るけどさー」 「え? あ、うん。いいけど……」  軽ーく言われて、思わず承諾してしまう。竜司の宿泊承諾もこれか、と壱流は困惑した。確かに眞玄に言われると、なんとなくうっかり頷いてしまう。ある意味才能だ。 「おいおい。何二人で仲良く就寝しようとしてんだよ」 「いいじゃん、滅多にないことだもんねー」 「眞玄てめえ、妙なことしたら叩き出すからな」 「しませんからー」  前以て竜司が出しておいてくれた借り物のスウェットを着て、眞玄は眠そうに欠伸をした。 「たくよー、壱流。あいつ結構観察眼あるから、気を付けろよな」 「……ああ」  なんとなく左手首を握りながら、眞玄がリビングに消えた先を目で追う。もしかしたら何か二人で話すことでもあるのかと思って、気を利かせて外したのかもしれない。 「てゆーか、なんだよさっきのは」 「あん? 嫉妬か? ……いや、なんかあいつ、エロボディなもんでつい構いたくなって。本気じゃねえよ? 眞玄も、さっき普通だったろ」 「俺的には、結構竜司本気っぽかった」 「いやそれは現場見ていないから、そう思うだけであって。ほんとじゃれあい。可愛いもんだよ」  そう言うのなら、そう受け取っておいた方がいいのだろうか。壱流は難しい顔をしていたが、やがて考えるのをやめた。 「俺とおまえのことに、気付いてる印象だったなあ、眞玄」 「そうか……だからと言って、おおっぴらにはしない。今日は眞玄とリビングで寝るからな。約束しちゃったし」 「――ふん」  竜司はつまらなそうに鼻を鳴らし、浴室から出てきた。濡れた体は逞しく、さっきちらっと見た眞玄よりがっちりとしている。だが眞玄も結構な体だった。竜司が言う通りのエロボディだ。そんな筋肉自慢の二人で、なんで一緒に風呂に入っているのか壱流には不明だった。暑苦しい。 「ちょっと惜しかったかなー」  何に対して言っているのか、竜司がぼそりと呟いた。 「竜司が俺以外の男に興味があるとは知らなかった」 「嘘だよ……馬鹿言ってないで、寝るか。なあ」  壱流の冷たい視線に気付き、竜司はそそくさと眞玄の後を追った。布団を出してやる約束だった。  早く寝ないと、明日は明日でやることがある。 おわり。

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