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第17話 エネミー・インサイド(5)
竜司が体を洗っていたら、いつのまにかに湯船で眞玄がうつらうつらとしている。そんなところで寝られても困る。ため息をついてその肩に手をかけた。
「起きろよ、風邪引くぞ」
「……はーい……」
竜司の声に目をうっすらとこじ開け、温かくて眠くなってしまった男は、お湯で顔をばしゃりと洗う。
「うーん……やばい、眠いわ。……うわ、竜司さん、改めて見るとデカイね。平常時なのに」
「んあ?」
浴槽の縁に片手をついていた竜司は、急に何を言われたのかと眞玄の目線の先を追ったところ、自分の股間に辿り着いた。
「あんまじろじろ見んな。更にデカくなんだろうが。おまえ責任取れんのか?」
「いや……取れません。俺そういうのは、付き合ってる子としかしないから」
「へえ、意外と一途な」
くすりと笑って、体を洗った竜司は再度湯船に入り込む。少し余裕を持たせた作りの浴槽だったが、それでも図体が179と190の男が入ったら、狭い。
「ちょっと、狭い。竜司さん、それはないわ。俺出る」
竜司の赤い髪からぽたりと雫が落ちて、眞玄の鎖骨の辺りに着地した。
「おまえ今、さらっと妙なことを言ったな」
「え、なに?」
「付き合ってる子って……野郎か?」
「…………えーと?」
股間を大きくされても責任が取れない。付き合ってる子としかしない、という発言をした。女の子相手の科白ではない。
「言葉のあやってゆーか」
「おまえ髪も染めねえで、まるで壱流みてえだな。きれいな、黒髪。俺は好きだぜぇ、そういうの」
「えー、やめてくんない」
身動きの取りづらい浴槽の中で、両手首を封じられて、竜司の顔が近付いた。
「口止め料でサービスすんぜ?」
「……ちょ、ほんと、勘弁」
軽薄そうな作りの顔に困惑を滲ませて、竜司から逃れようと顔をそむける。どうしてこのような展開になったのか、不明だ。
「竜司さん……俺は自分から攻める子だから! マジで! こういう構図は超不本意」
「ほほう、なかなか、興味深い発言すんじゃねえか。仔猫ちゃんがいるんか。けど、おまえも相当旨そうな体してんぞ」
「竜司さん、ガチホモ!?」
「別にそういうわけじゃねえけどよ。そういうてめえはどうなんだよ」
「俺はヘテロだよ? たまたま今付き合ってんのが男ってだけで! ……あ」
うっかり認めてしまった。竜司はにやにやと眞玄を眺めて、体を引き寄せようとする。力比べのように、しばらく押したり引いたりしていたが、さすがに竜司の方が体が大きかった。
「なんなんだよお! 少しは信用しろっての……口止め料ってなんだよ! 大体なんで壱流さん、リスカなんてしてんだよ。竜司さん理由知ってんの?」
「おまえにゃ関係ない。おら、ちょっと体預けてみ」
ぐいぐいと体を割り込ませ、狭い場所で格闘めいたものが始まる。お湯がばしゃりとはねて、排水溝に流れてゆく。
「眞玄おまえ、ネコも経験あんじゃねえ? めっちゃ需要ありそうだわ」
「ないよ!!」
一体何をしているのだ。
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