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第1話 しきたり

 この国では、プロポーズをする時にしなければいけないしきたりがある。  雨の日も嵐の日も雷の日も絶やすことなく、一日一本の花を45日間毎日贈らなければならないというもの。  何故そういうしきたりができたのかは、誰もが授業で習う。  昔々荒れた魔物の地だったこの地を、一人の勇者が魔物を倒し、人の住める地にした。少なかった人は増え、勇者の名を耳にしたものが集まり、やがてたくさんの人が住まい、とうとうここに国が建った。  誰もが勇者に国を治めて欲しいと懇願し、勇者も諾と応えた。  国王となった勇者には、実は想い人がおり、勇者は、国が落ち着くと、今度は身を固めるため、その想い人に毎日花を贈り、求婚をした。  初めは恐れ多いと断っていた王妃様も、45日目にして、とうとう諾の返事をし、2人は結ばれ、それからは幸せに暮らした、とされている。  それ以来求婚をする時は、幸せな一生を終えた勇者にあやかり、花を贈るしきたりとなった。  もっとも、建国以来1200年あまり、今では名を隠して花を贈り、45日目の最後の日に花とともに現れて、答えを貰う、と少々しきたりの内容も変わっていったのだが。  とうとう兄上が求婚の儀を終えて、良い返事を貰ったらしい。  満面の笑みで僕達家族に報告してくれて、その日は兄上の結婚を祝うパーティが開かれることになった。兄上が誰に花を贈ったのか、僕は知らなかった。でも、絶対に彼だと思っていた。  しかし、兄上の横に座った相手は、とても綺麗で、とても優しそうで、とても穏やかそうな、僕の知らない人だった。彼じゃなかった。  彼とは、兄上が学生時代からすごく兄上と仲の良かった兄上の同級生のアレイン。アレインは週末の休みになると必ずうちに遊びに来てくれて、兄上とずっと一緒にいた。たまに僕も遊んでもらったりして、僕はひそかにアレインが好きだった。でも、アレインはどう見ても兄上を好きだったと、僕は今でも思っている。  兄上が隣のお相手ととても幸せそうに笑う。  その相手がアレインじゃなくて、正直ほっとした。  これで僕が求婚しても、もしかしたらチャンスがあるかもしれない。  僕は、その祝いの席で、思わず零した。 「僕も、兄上たちのように幸せになりたいから、花を贈ろうかなあ」  両親も兄上たちも、僕の言葉を聞くなり応援してくれたけれど。アレインは、最後の日になんて答えてくれるだろうか。いつから花を贈ろうか。色々と考えながら、その日は眠りについた。

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