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第2話 僕への求婚

 次の日、僕の職場である王城の執務室に向かった。  僕の机に座り、いつも荷物をしまっている一番下の引き出しを開けると、そこに、綺麗にラッピングされた花が置いてあった。 「これは……」  まぎれもなく、求婚の花だった。  僕が花を贈るはずが、贈られる側に回ってしまうなんて。  一度花を貰い始めてしまうと、最後に相手に答えを返すまでは自ら花を贈ることが出来なくなる。  まさに出鼻をくじかれたようなタイミングで、僕への求婚が始まった。  僕が仕事の時は、机の中に。休みの時は、早朝に家の手紙受けに、毎日一本ずつ花が贈られていた。  相手が誰か、僕は全く見当もつかなかった。  毎日花を持ち帰っては、部屋の花瓶に刺した。  相手が誰であろうと、僕は心に決めた人がいるんだ。  すでに初めに貰った花は枯れてしまった。  今日で求婚の花を貰った本数が30を数えた。  残り、15日。  聞いた話によると、兄上も毎日、ということにかなり苦労したらしい。でも、毎日思い人がこの花を見て、例えばほんの少しでも自分が花を贈っているんじゃないかと想像してくれたら、それだけでもう幸せだと、本当に蕩けるような笑顔で言っていた。  じゃあ、この花を贈ってくれている人も、僕のことを考えて贈ってくれるんだろうな。酔狂で求婚の儀をやる人なんてこの世にはいないから。  買った花、育てた花、野に咲く花、あぜ道に咲いているような本当に小さな花でも、贈る方の気持ちが籠っていれば制限がないこの求婚の儀で、毎日綺麗に包まれた花を僕にくれるこの送り主は、どんな気持ちで毎日花を包んでくれるんだろう。  そんなことを考えると、一言「僕には思い人がいるのでごめんなさい」で済ますのはとても罪悪感がある。  僕自体はいいのだ。  たとえ色よい返事が貰えなくても、それはそれでこの気持ちに終止符が打てるから。  職場の机に入れれる距離というのは、実質すぐ近くに求婚してくれる人がいるということだ。  僕は、今日も今日とて、机の中に花が入っているのか確認しようと引き出しに手を掛けた。  誰だろう。と、考えても全く想像もつかない。今までこの王城で、そんな色っぽい関係になった者など、一人もいないのだから。ここを選んだのは、兄上とアレインがそろって騎士としてここにいたから。アレインの凛々しい騎士姿を見たくて王城への狭き門を、必死になって押し通って、今ここにいる。王城の執務室から騎士団の訓練を見て、あまりに兄と近しい雰囲気に、後悔もしたのだが。  そんな僕に、他の人に目をやる余裕は全くなかった。  今日も、綺麗に包まれた一本のピンクの花が、机に入っていた。  日に日に、どうしよう、という想いと、今日もあったことへの安堵が募っていく。  僕はどうしたいんだろう。絆されたんだろうか。この、まだ見ぬ花の贈り主に。  でも、僕の心は狭いから、一人の人しか想うことは出来ないんだ。  だから、花があったことへの安堵なんて、しちゃいけない。この求婚に蹴りがついたら、今度こそ僕が花を贈るんだから。断られることはわかっていても。  そっと引き出しをしまい、仕事を始める。  しかし最近は気もそぞろで、あまり仕事に身が入らないのが現状だった。

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