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第3話 覚悟は決まってる

 その日は、丁度王城内の警護に当たっていた兄上とばったり会った。  訓練か城内の警護か、市井の巡回、門番、騎士にはいろいろな仕事がある。兄上と、独身のアレインは、今までは同じ部隊に所属していたけれど、結婚し、身を固めた兄上はもうすぐ別の部隊に移動することになるらしい。  兄上は、こっそり僕にそんなことを教えてくれた。 「あいつと離れるのは正直つまらない気がするけれど、でも今の所属部隊だと、家に帰れないよな日も多いからな。せっかく一緒になったのに、寂しい思いをさせたくはないんだ」 「そうなんだ。兄上が幸せそうで、僕も嬉しいです」  兄上の惚気話にそう返すと、兄上は思い出したように僕を見て首を傾げた。 「そういえば、ノアも花を贈ると言っていたけれども、うまくいってるのかい?」  兄上の言葉に、僕は一瞬だけ固まった。何とか笑顔を作り、首を横に振る。 「まだ……覚悟が決まっていなくて」  本当は覚悟なんて、すでに固まっていた。けれど、花が贈れないんだ。僕が花を贈られているから。  決まったら教えて欲しい、頑張れよ、と僕を見送ってくれた兄上に手を振って、自分の職場に戻る。  どうして僕は考え込んでいたんだろう。  僕が花を贈って結婚したいのは、アレインだけだ。  可哀そう、なんて思う僕は、どうかしていた。  兄上とアレインの話をしていて、僕は初心に帰ったように、気持ちを固めていた。  とうとう、最後から二本目の花が、職場の引き出しに入っていた。これで、44本目の花だ。  そのころになると、職場内でもすでに僕が誰かに求婚されていることは、ほぼ全員に知られていた。  誰もが相手のことを話題に上らせないまま、ただ静かに僕を見守っている。  明日は、どこへ花を持ってくるんだろう。明日も僕は仕事でこの執務室に来る。ここに来るのか、朝のうちに家の方に来るのか。それとも、帰りがけに花を持ってくるのか。  人がいない方がいいな。だって、どうしても応えられないから。  なかなか寝付かれないまま、求婚の最後の日を迎えた僕は、ぼんやりとする頭を思い切り振って、冷たい水で無理やり身体を目覚めさせて、職場へ向かった。

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