134 / 139

『エピローグ』

「ほら、僕のネクタイ結んで」  首にかけたまま結んでいないネクタイ。毎朝一臣が結んでくれていた。  それは周りの生徒たちも知っている。 「俺が?」 「何? 一臣に結ばせてもいいの?」  さらにざわつき出す生徒たち。チラチラとこっちを気にしながら通り過ぎていく者。振り返ってあからさまに見て行く者。  うん。見ていけばいいよ。  だって……。 「テツは僕のものなんだから」  口端を上げて笑う。園田は僕の意図を察したのか、同じように意地悪く笑うと、「女王様には叶わないなぁ」と呟いて肩膝を床に付けて、ネクタイに手を伸ばした。 「アズ……俺の女王様」  器用にネクタイを結ぶとそう呟いてネクタイの先にキスをした。  どちらかに身を固める。元々どっちでもない。最初から園田しか見ていなかった。  恋を育てて、育んで、僕は愛を手に入れた。  聞けない愛の睦言を、知らない愛の営みを、全てあなたに捧げて。 「僕は、テツだけの女王様だから」  傅いたまま園田は、「愛してる」と呟いた。  全校集会では一臣が喋り出した。愛しい恋人の為に。  騒がしい日々がまた始まり、恋が囁かれる。  それを聞き逃さないように、溢してしまわないように僕は、傅いた園田の首に両腕を回し、周りに聞こえないように、「満足させて」と呟いた。 (おわり)

ともだちにシェアしよう!