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第16話

この学校の文化祭の前の日に『前夜祭』、文化祭の後には『後夜祭』というものがこの学校にはあるようで、何故疲れる前の日にこんな疲れるようなお祭りをするのか私には理解が出来ませんでした。  (明日明後日に備えて、早く帰ろうとは思わないのでしょうか?) 自由参加の催しでしたし、私は特に興味がないので帰ことにしました。 (今日は……晴れていました) 同級生に見付かったら声をかけられたら、私は断りきれないでしょう。 探されたりでもしたら嫌なので、私は職員用玄関からこっそり帰ることにしました。 幸いにも先生も生徒もいないようなで、靴を履き駆け出したそのときに聞いたことのある声に私は振り向いてしまいました。 「やっぱし?叶は帰ると思ってた」 ……そんな甘くはなかったようです。 聞き覚えのある声は、やはり杉原先輩でした。 「まぁ自由参加だし、帰ったって文句は言えないからね。堂々と正門から出ればいいのに」 そうなんですけど。 実は今日杉原先輩は私に会いに来てはくれなかったので、何かあったのか心配になり、そっと探したのですが、見つかりませんでした。 しかし先輩は今私の目の前にいるのです。 学校には来ていたのですね、……と私は安心してしまいました。 「先輩何故ここにいるんですか?」 「叶を探してたからだよ」 まるで当たり前のように答える杉原先輩。 「どうしてですか?」 「口が淋しいからだよ」 本当に当たり前のようにです……。 「晴れていたし、スゴいのやりたいんじゃないの。特に叶は……ね?」 私が杉原先輩を探していたのを知っていたみたいに聞こえたのが不思議でした。 最近いつも教室に来るに、何故か今日は来てくれなくて……私から杉原先輩を探していたのを、本当に知っているみたいな口振りでした。 (もしかして約を束破ってニコチン摂取しに行ったのかと……少しだけ思っていたのですが) 「叶に会いに行きたいなぁって、口淋しいなぁと思ってたんだけど、単位ヤバくてさ。視聴覚室で補習受けてた」 『あははっ』と困ったように笑う杉原先輩。 「先輩」 「トイレと昼飯しか休憩ないから、叶に会いに行けなかったんだ」 約束守ってくれていました。 最初は軽い人だと思って、いい人かな?悪い人だとも思って、なのに優しくて……助けてくれて慰めてくれた杉原先輩を、私は約束をやぶってニコチン摂取しにいったのかもと……少し疑っていたのに、約束を守っていてくれていました。 少しでも疑った私は悪い人間のように思えてきました。 「先輩、ニコチン中毒なんですよね?口……淋しいんですよね…?」 確認したい訳ではないのに、私の口は勝手に言葉が出てしまっていました。 「そだね。ニコチン中毒治ったらご褒美頂戴」 「そうですね。ご褒美、考えておきます」 (……それは私も利用してるからです。それで償いになるのでしたら) 後ろめたさがなくなります。 自分の都合ばかり考えてる嫌な私です。 「じゃ、とりあえず今日のご褒美に今ここで摂取させてよ」 口を合わせるだけで、ご褒美になんてなるのでしょうか? そう思いもしましたが、私には断る理由なんてないですし、刺激は欲しいので頷きました。 「どうぞ」 すると、何かいつもと違うように私の腰に先輩の腕が回ってきました。 重なる口と口は噛みつくようなのに、何処か優しくて……。 そろそろ苦しくなるころに先輩の腕が離れます。 「目……、閉じてくれないんだね」 私は荒くなった息を整えながら答えました。 「何故、そんなことを聞くのですか?」 「叶には俺がどうしてこんなことしてるか意味……本当に分からないの?」 「分かってますよ、口淋しいんですよね?」 杉原先輩は舌打ちを軽くして『……残念、まだか』とぽそりと呟いてました。 ……何か他に意味があるのですか? 一瞬だけ真剣な顔付きでこちらを見たけれど、直ぐあの困ったような笑顔になり、 「なんでもないよ」 先輩はそう答えます。 私にはとてはそうには思えなかったので、少し考えようとしていると、 「誰にも見られなくて良かったね」 先輩はにっこり笑いますが、私は過去にもっと凄いことをした経験があります。 「私は見られても、痛くも痒くもないです」 「叶?」 「……なんでもないです」 見られたってなんてことないです、……こんな行為。 (……明日は雨だといいですね) 「さよなら、杉原先輩。また明日」 多分上手く笑えたと思います。 「叶、また明日。バイバイ」 いつもの先輩だったので、私はそう思っていました。 「……」

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